【東京・株式会社HIROTSUバイオサイエンス】 線虫の嗅覚を用いた世界初のがん検査を発明し、「ポスト投函」による提出が可能に

インタビューに応じる株式会社HIROTSUバイオサイエンスの広津崇亮代表取締役

株式会社HIROTSUバイオサイエンス(本社:東京都千代田区)の広津崇亮代表取締役は、「線虫の嗅覚を」用いた世界初のがん検査「N-NOSE (エヌノーズ)」を発明し、研究者としての発見を社会実装にまで導いた“科学者CEO”です。

2025年8月には、N-NOSEは全国で「ポスト投函」による提出が可能になり、誰もが自宅から、がんリスクを調べられる時代が到来しています。尿に含まれる「がん特有の匂い」を嗅ぎ分ける小さな生物である線虫を利用して全身23種類ものがんのリスクを早期にとらえる事ができる世界初の技術です。

応用研究により、従来の腫瘍マーカーと比較しても高い感度を実現。自宅の採尿を経てポスト投函だけで検査が完了する手軽さが挙げられ、注射・バリウム・内視鏡という身体的負担がない点も強みです。

価格は1回1万6,800円(税込)と一般的な全身がん検診と比べてハードルが低めに設定。定期的な入口の検査として用いやすい検査モデルです。

今回、株式会社HIROTSUバイオサイエンスの広津崇亮社長に話をうかがいました。

株式会社HIROTSUバイオサイエンス

広津崇亮社長

目次

日本の医療技術は優秀だが、検査では古典的な手法を維持

カルテにメモする医師のようす(写真は内容とは関係ありません)

――がんの早期発見の現状について。

広津崇亮社長(以下、広津社長)

がんを早期発見できる技術は、胃カメラ、大腸カメラなど限られているのが現状です。皆さんが使用しているがん検査でも発見率10%にとどまっている技術は数多くあります。これだけがん研究をしても機械に基づく効果的ながん発見の技術をまだ人類はつくれていません。

日本の医療技術は優秀ですが検査では遅れ、古い技術をそのまま使っています。

実はがんの発見は非常に難しく、理由は身体の中にあり、早期がんは組織が小さく画像で見分けるのが大変だからです。

ある時にがんにはにおいがあることをたまたま知り、生物の嗅覚を利用すれば、がん発見に活用できると考えました。次に優れた技術であっても価格が高ければ、普及は難しい。がん探知犬のサービスもありますが、飼育や訓練に費用がかかり価格は決して安くありません。

「線虫の嗅覚」の活用し、がんの早期発見に役立てる

がん細胞のにおいをかぎあてる線虫を活用した

――「線虫の嗅覚」によるがんの早期発見技術の概要はいかがですか。

広津社長

実は、「線虫の嗅覚」は犬並みに優れていることはよく知られています。かつ自然に増えていく生物ですから、犬のように飼育コストはかかりません。そこで線虫を使えばがんの早期発見を高精度でかつ安価で実現できることを思いつき、研究に邁進してきました。

「線虫の嗅覚」の研究は私のライフワークです。線虫は、においを使って好きなものに近づいたり、嫌いなものから遠ざかったりする「化学走性」という性質を持っています。夜に昆虫が光に惹かれる現象をイメージされると良いでしょう。

片側に尿を置き、線虫を中央に配置します。健康な方の尿であれば線虫は遠ざかり、がん患者の方の尿であれば好んで近寄っていたことを発見しました。線虫は、がんのにおいを好む性質があるのは間違いありませんが、このにおいの正体は世界中の研究者が探っている段階で、これぞがんのにおいと発見された研究者はまだおりません。

「N-NOSE」は安価、簡易、高精度の特徴を持つ

「N-NOSE」の6つの特徴

――具体的にはどのようながん検査を行なえるのですか。

広津社長

「N-NOSE (エヌノーズ)」は、がんの早期発見を目的とした画期的ながんリスク検査です。体長約1mmの線虫が、今申し上げたがん患者の尿に含まれる微量のにおい物質に反応する性質を活用しています。

特徴は、①線虫の優れた嗅覚が、がん細胞から放出される物質を検知②一度の検査で23種類のがんリスクを調べることが可能③尿を提出するだけで検査が可能なため、身体への負担が少ない④健康診断や人間ドックのオプションとしても利用可能⑤早期がんのわずかなシグナルにも反応する、そして⑥尿検体をポスト投函するだけで検査できることがあります。

注意点は、がんの「診断」ではなく、あくまで「がんのリスク判定」を行う検査です。そのため、陽性判定が出た場合でも、必ずがんと確定するわけではありません。

また、がんは、約23種類あり、個別に検診を行っていました。厚生労働省が特に受診を推奨している5種類のがん検診があり、内訳は、胃がん、肺がん、大腸がん、乳がん、子宮頸がんです。しかし、これでは他の18種類のがん検診までは足りません。しかし、N-NOSEによるがんのリスク判定を実施すれば、ほぼ全身を確認できます。

ちなみに、N-NOSEのNは線虫の英語表現が、nematodeであり、NOSEは鼻ですから、「線虫の鼻」を意味します。

全国津々浦々のがん検診格差を埋める大きな意義

ポスト投函で全身23種のがんを調べる

――地域や環境によりがん検査にも格差がありそうですがこの点については。

広津社長

都道府県ごとのがん検診受診率も発表されていますが、残念なことに低い地域の中に北海道があげられます。理由の1つは、病院が遠いからです。時間をかけて病院検査を行うことについては面倒と感じる方が多いです。

そこでがん検診の簡便化が肝要です。当社がポスト投函でがん検診を可能としたシステムは画期的で、実際に北海道では売り上げがあがっています。特に、札幌市以外で利用はあがっていますので、皆さん病院まで行ってがん検診を行うことについては面倒と感じていたのだと改めて実感しました。

――ポスト投函によるサービスとは。

広津社長

以前は冷凍または冷蔵での尿検体の輸送が必要でしたが、独自の技術革新により常温での輸送が可能になり、さらに2025年8月から全国の郵便ポストから手軽に投函できるようになりました。場所を問わずにがんの気づきを得られる新たな手段です。

実際に、当社の販売実績データでも、がん死亡率の高い地域(北海道・青森・秋田など)を含む地方エリアでの利用が前年比で大幅に増加しています。

今回、ポスト投函での提出サービスが加わることで、地理的要因が課題だった多くの地域に対し、より身近で公平ながん検査環境が整いました。地域での時間的制約の課題解決にも役立ちます。

がん検査の障壁であった「時間」「費用」「移動」「地理的要因」の制約を大幅に軽減でき、離島は除きますが日本国民全員同じ条件になり、障壁がなくなったことに大きな意義があるのです。特にがん検診は面倒なイメージがありますが、N-NOSEは簡単ですので、是非ご利用されて欲しいと願っています。

朝、尿を採取して昼間にポスト投函の簡易さで大きな反響

――尿の常温輸送が可能になった意味については。

広津社長

尿そのものは通常は無菌とされているのですが、尿を採取する際に菌が付着することがあり、常温輸送では菌が増殖して尿が濁る場合があります。この菌の増殖防止方策の研究に4年間かかりましたが、常温輸送が可能な技術を発明し、面倒さがなくなりました。朝、尿を採ってポストに投函するだけで、がんの可能性を早い段階で知ることができる時代になり、今すぐやろうという意識が高まっています。

――がん検診のハードルがずいぶん下がった印象がありますね。

広津社長

内閣府の「がん対策に関する世論調査」によると、がん検診を「受けない理由」として「心配なときはいつでも医療機関を受診できるから (23.9%)」「時間がないから (21.7%)」 「面倒だから (21.0%)」などが多く挙げられています。

これに対し、当社が実施した「N-NOSEご利用者様アンケート」では、「少しでも色々な検査を受けたい (26.1%)」「年齢から必要(18.0%)」「時間・費用が掛かるから (15.4%)」という行動の理由が上位を占め、対照的な結果が示されました。

――N-NOSEをどれだけの方がご利用されていますか。

広津社長

年間であれば20万人、累計であれば85万人の方、企業の約2,500社がご利用されています。ちなみに、新しいがん検査手法の多くは約20万円の費用がかかります。

それに比べてN-NOSEの価格は1回1万6,800円(税込)と約1/10の以下であり、一般的な全身がん検診と比べてハードルが低く、多くの方がご利用されている実感があります。がん検診は年に1回ですから月で計算すると、1,500円でがん予防の安心を買えるので安さもポイントです。

――N-NOSEをご利用されている方からのお声は。

広津社長

非常に多くの感謝の声が届いており、特に早期がんの発見につながったとの声が多いです。N-NOSEにより早期がんを発見された方の割合は約85%です。逆に既存のがん検査は末期になってから見つかることが多く、その点に大きな違いがあります。

N-NOSEで低リスクと判断されたのでとても安心しましたとの声も多いです。全身にがんがないと分かればとても安心して生活ができますとの声も多いのです。

「線虫の嗅覚」を広めるために、自らがリスクを取る

研究者一筋から起業した広津社長

――HIROTSUバイオサイエンスを起業された道筋もお願いします。

広津社長

私は最初から起業を志していたわけではなく、日本学術振興会特別研究員、京都大学大学院生命科学研究科研究員を経て九州大学大学院理学研究院助教に就任するなどの経歴ですから一貫して研究者畑を歩んでいました。

東京大学理学部時代には、アメリカ帰りのある教授の「これからは線虫だ」という言葉に心を動かされ、線虫研究学生の第1号として研究を始め、4年生から修士課程まで“線虫の交尾行動”という未知のテーマに挑みました。当時、国内の線虫研究者はわずか10人ほどのマイナーなテーマです。

大学院理学系研究科博士課程時代から、「線虫の嗅覚」に関する研究を開始し、2000年には、線虫の匂いに対する嗜好性を解析した論文が英科学誌『ネイチャー』に掲載され、2001年同大学院理学系研究科博士課程を修了しました。

私は大学では基礎研究に従事していたため、自分が「線虫の嗅覚」を実用化することは全く思いも寄らなかったのです。ただ、日本の産学連携事業がスムーズには進んでいない実情は理解していたので、自分がベンチャー事業を立ち上げ、大学教員の職を辞して、社長に就任しました。

――大学と民間企業の協業を模索されましたか。

広津社長

「線虫がん検査」は当初各種メディアにも取り上げられ、民間企業も、「一緒にやりましょう」とのお声がけは確かにいただきました。しかし、これはうまくいかないだろうとも感じ取ったのです。その理由は、リーダーシップを持って旗を振る方がいなかったからです。そこで自分がリスクを負ってやるしかないと決断しました。

私は講演の席で、「リスクがゼロのところに成功もない」と語りますが、この技術を実用化し、世界に広げるためには誰かがリスクを取らなければなりません。その場合、それは誰かと思案した際、自分しかいないと考え、起業を決断しました。

――大学で出世の道を考えると、助教から大学教授、さらに名誉教授になり、別の大学で教鞭を再度執る道が多いように思えます。

広津社長

99%の大学教員が、今おっしゃった道を選択するでしょう。私の場合、任期の定めのないパーマネントの職でしたから安定した雇用形態です。そこで自ら退職される大学教員は基本的にはおりません。

たとえば3年任期があれば、任期が来たので退職されますが、私の場合は九州大学でしたが、ずっと九州大学で研究や学生の指導を続けることも不可能ではなかったため、それをなげうつ大学教員のケースはほぼいないと思います。

研究者としてリスクを負わず大学で教鞭を執れば安泰ではありますが、自分がつくった技術を多くの方に使っていただくことは科学者の夢です。その夢を実現するためには誰かがリスクを負わなければなりませんが、それが自分であったのです。

2026年から海外へも事業展開し、人々を幸福に

N-NOSEがポスト投函で全身がん検査が可能になったことを記者会見

――最初はどのような形で創業されましたか。

広津社長

創業メンバーは私含めて3名です。内訳は、私、経理担当とメディア系の方です。科学技術は研究室の片隅で開発しても、世の中に広まりません。研究者は、良いものを開発すれば自然と世の中に広まるだろうと考えがちになりますが、皆さんに知ってもらう努力をしなければ使ってもらえません。

勇気をもって外を出て皆さんに知ってもらうことが大事だと前から思っていましたので、そこで意気投合したのがメディア系の方で、そんな形でスタートしました。

――それでは今後の方針については。

広津社長

N-NOSEのポスト投函のサービスが本格的に普及することにより、都会はいうに及ばず地方にも波及していくことが見込まれます。今後も、サービスの普及活動を強化していきます。2026年からは海外への展開も本格化します。海外のいくつかの国で実用化を開始したいです。

――最後にN-NOSEへの想いを。

広津社長

最近の新たな医療技術はAI活用が増えています。検査のデータをAI処理した方が精度が上がる可能性がありますに。N-NOSEの精度の高さはすでに証明済みですが、AIを使って線虫の行動の画像データを処理すると、精度が向上することが分かっていますので、研究を進めることで製品化も可能です。

N-NOSEの次の段階は、がんの種類の特定で、こちらも開発しています。遺伝子の組み換えにより、すい臓がん・肝臓がんにだけ反応性の変わる線虫をつくりました。実はがんの種類により、においも異なるということがさまざまな研究により明らかになっています。今、23種類のがんに対応する線虫をつくっている最中です。

「がん種特定検査」として、世界で初めて早期すい臓がんの検知を可能にした「N-NOSE plus すい臓」のサービスを開始、第2弾として肝臓がんが「N-NOSE plus」に加わり、サービスを開始しています。

私は経営者であると同時に、科学者でもあります。科学者としての願いは、世界中の一人でも多くの人にN-NOSEを届けることです。高額な医療技術が多い中、N-NOSEは手の届く価格で、先進国以外の人々にも健康を守る機会を提供できます。より多くの人に使ってもらうことで、さらに低価格化を実現し、世界中の人々を幸福にしたいと願っています。

会社概要

名称株式会社HIROTSUバイオサイエンス
本社所在地〒102-0094 東京都千代田区紀尾井町4-1 ニューオータニガーデンコート22階
代表取締役広津 崇亮
事業内容生物診断研究 線虫および線虫嗅覚センサーを利用したがん検査の研究・開発・販売
公式SNShttps://hbio.jp/
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