和歌山県・日高郡にある日高川町(ひだかがわちょう)は面積の多くが豊かな森林に恵まれ、町には町名の由来になった日高川が流れ、サイクリングも楽しめます。信号もほぼなく川に沿って走るサイクリングは、風を切る感動も生まれます。
また、歴史的建造物では、歌舞伎や能、浄瑠璃の演目で有名な「安珍・清姫(あんちんきよひめ)伝説」で知られる道成寺があります。今回はこの日高川町の観光の魅力について、日高川町観光協会の前田 翔太さんにお話しをうかがいました。

低山の魅力 真妻山など大自然の魅力満載

――まず日高川町の紹介からお願いします。

日高川町には日本一長い二級河川※の日高川が流れ、河川周辺に集落が点在しています。
川下には安珍清姫伝説の舞台である有名な「道成寺(どうじょうじ)」があり、逆に上流にさかのぼると、「ヤッホーポイント」という山彦がとてもよく聞こえるエリアがあり、この近くには「日本一長い藤棚ロード」もあるんです。
この道成寺と「ヤッホーポイント」が町にとっては大きな観光資源です。
4月~8月末までは渓流アマゴ釣りがシーズン。自然の川を活用したアマゴ釣り掘りがあり、釣った魚をその場でバーベキューにより食べて楽しむ施設があるんです。最近は、町全体でアウトドア観光にも力を入れて、後に詳しく説明しますが日高富士(真妻山/まづまやま)は登山初心者の方でも登りやすいんです。
日高富士は、標高523.4m。最近、低山の魅力が評価され、NHKで「にっぽん百低山」という番組を放映中で、低いながらも人々に愛され、物語を秘めた山を紹介されています。本観光協会でもこの低山の切り口で観光に取り組んでいきます。
※二級河川・・・一級水系以外の比較的流域面積が小さい水系(二級水系)の河川のうち、都道府県が管理している河川。
藤原宮子と深く関わる道成寺


――次に個別の観光地の紹介をお願いします。まず、道成寺から。



和歌山県最古の寺である、天音山道成寺は701年(大宝元年)に創建されました。本堂などの重要文化財の建造物や、国宝、文化財指定の仏像などをお祀りしています。
道成寺には2つの伝説が伝わっています。まず創建にかかわる「かみなが姫(藤原宮子)の物語」から紹介します。
今の道成寺は海から離れていますが、700年(奈良時代)あたりは、海の近くにありました。このあたりの村長に娘が生まれましたが、髪がまったく生えてきませんでした。ある日、母親が海に潜っていると、海底に光輝く観音像が現れ、命がけで引き上げて毎日拝んでいますと、娘に長い髪が生えるようになり、人々は「かみなが姫」と呼ぶようになりました。
時の権力者・藤原不比等に「かみなが姫」の存在が目に留まり養女となりました。「宮子」という名前を与えられ、文武天皇の夫人になり、後の聖武天皇の母親になります。宮子姫は自分の美しい髪を授けてくれた観音像にあらためて感謝し、御恩を返すためのお寺として文武天皇が道成寺の建立を命じて建てられました。
この伝説については諸説あり、多くの学者が研究されていますが、藤原宮子(ふじわらのみやこ)の出生※の含め多くの謎が隠されています。
道成寺は日高川町と御坊市の境に位置し、藤原宮子は御坊市出身と伝わっています。
※藤原宮子養女説・・・哲学者・梅原猛は、『海人と天皇』で、宮子は不比等の養女であり、紀州の海女であったとする説を考証した。ちなみに日本の正史『続日本紀』では不比等の実子と表記されている。
なお、日高川町の隣の御坊市のHPでは「宮子姫物語」を紹介している。
――そして次は、安珍清姫伝説ですね。



創建から230年の物語で、928年(延長6年)の話であると伝わっています。参拝の途中、一夜の宿を求めた僧・安珍に清姫が懸想し、恋の炎を燃やし、裏切られたと知るや大蛇となって安珍を追い、最後には道成寺の鐘の中に逃げた安珍を焼き殺すという物語。
安珍清姫伝説は、歌舞伎や浄瑠璃などを通じてご存じの方は多いのですが、実在するお寺であることをご存じない方も中にはいらして、新しい発見とお寺の由緒を改めて調べられる方もおります。
道成寺にお参りすれば、ご住職は絵巻を使い、お客様がいらっしゃいましたら毎日、物語を語っています。
特徴的なお話ですので語るご住職もお客様の笑いを誘うような語り口で気軽に楽しんでいただけます。
場所: 天音山 道成寺 〒649-1331 和歌山県日高郡日高川町鐘巻1738
藤棚ロードでは色とりどりの藤が咲き誇る


――次は、「日本一長い藤棚ロード」ですが。



和歌山県日高川町のリフレッシュエリアみやまの里森林公園内には、長さ日本一(1646m)を誇る藤棚ロードがあります。毎年4月中旬から5月初旬が見ごろで藤の花が咲き誇りこの時期に多くの観光客が訪れます。藤棚を上に見ながら、道を歩く施設で多い年には約2万人のお客様がシーズン時にいらっしゃいます。
藤の花にはいくつか種類があり、日当たりの状況で、早咲きと遅咲きの藤の花があります。4月中旬頃には早咲きの花が、次に中咲きが、5月に入ると遅咲きの花がそれぞれ咲きます。全体的に一気に藤の花が咲くことがなく、種類や日当たりの状況で順々に咲いていきます。
高低差96mの健康階段を登ったところにある展望台からは藤棚ロード、また県下有数の規模を誇る椿山(つばやま)ダムを一望できます。急な階段を登るのに抵抗がある方やご高齢の方には、頂上まで別のルートがあり、穏やかな山道で、藤の花をゆっくりと観賞しながら登ることができます。
場所:和歌山県日高郡日高川町初湯川202(みやまの里 森林公園)
藤棚ロードの紹介YouTubeチャンネルはこちら
椿山のダム湖で山彦を楽しもう


――山彦のポイントもあるそうですね。



日本一楽しい山彦スポットとして、「ヤッホーポイント」を売り出しています。いい山彦が聞こえるスポットを探されている、やっほ~おじさんという方が後の「ヤッホーポイント」にあたる場所で叫ぶととてもよく山彦が聞こえることを発見したのです。そこでその方が当時の本観光協会会長にかけあうなどして、看板をつくり「ヤッホーポイント」として整備しました。
山彦が聞こやすい条件をここでご紹介します。
1.周囲に声を遮るものがない
2.声を発する場所と跳ね返ってくる場所の距離が絶妙
3.周囲に民家等がなく、気兼ねなく大声を出せる環境
ヤッホー選手権もこれまでに7回開催し、以前はリアルに叫んだ声などをもとにして現地で審査していましたが最近はInstagramを使い、山彦の動画を撮っていただき、こちらで審査をし、特産品をプレゼントする企画になっています。Instagramでは声だけではなく叫んでいただく内容、動き、パフォーマンスも含めて審査させていただいています。


日本一楽しい山彦スポットで””声優が叫ぶ“”出典: YouTube ひだかチャンネル
今年の選手権の期間は未定ですが、秋から冬頃の開催を検討しています。「第5回ヤッホー全日本選手権×Instagram」では声優の中島由貴さんと櫻川めぐさんがヤッホー選手権にチャレンジしてくれました。お二人のヤッホー体験のYouTube動画はこちらです。
ヤッホーポイントとは・・・山や谷に向かって叫ぶと返ってくる山彦を楽しめる場所。和歌山県有数の規模を誇る椿山ダムのダム湖に浮かぶ椿山半島にヤッホーポイントがあり、ここからヤッホーと叫ぶと綺麗な山彦が返ってくる。
鷲の川の「渓流アマゴ釣り」が人気スポット


――アクティビティ体験にも注力されていますね。まず、アマゴ釣りからお願いします。



アマゴ釣りは町の中間あたりに位置し、例年、4月~8月末まで釣り掘りが営業しています。日高川漁業協同組合が鮎やアマゴの養殖を精力的にされ、そのアマゴを使っています。
こちらは手ぶらでいくことができ、竿やエサなどは現地でレンタル可能です。また、魚釣りの方法なども現地の方から教えていただけます。ただし8月あたりだと暑くなると、魚影も薄くなります。
特に釣れるのは4~6月あたりで、魚も元気で釣れます。ただしアマゴ釣りだけではなく、網で囲いをつくって小さいお子さん向けにつかみ取りのコーナーもあります。
ですから、ご家族でいらっしゃいますとより楽しめるんです。その場でバーベキューセットとして木炭やコンロもレンタルしていますので、釣った魚を召し上がることができます。
場所:日高川町田尻地区にある、鷲の川の「渓流アマゴ釣り」
料金: 1人2,500円。つかみ取りは、2,000円。親子で自然を満喫できる。
東から西に流れる日高川沿いを走る


――サイクリングも盛んですね。



日高川町では普段からサイクリストが走られ、本観光協会としてもサイクリングに力を入れる方針を示しました。
そこで町内でご協力いただいている施設19か所をロードバイクやクロスバイク用のサイクルラックを設置しています。日高川を走って気持ちが良いのは信号がない点です。
街中で走ると信号でストップしなければなりませんが、町内全域でも信号は数か所しかなく走りやすい。
日高川沿いにサイクリングルートも整備し、川を横目に見ながら走っていただけます。
隠れた名湯で汗を流す


また、川上から川下に至るまで町内には、「美山の湯(旧:美山療養温泉館)」「かわべ温泉 きさくの湯」「あやめの湯 鳴滝」と3か所の温泉がありますが、サイクリングを終えた後で汗を流すにもいいですし、温泉施設の中には飲食もできる場所もあり、また日高川周辺には「道の駅San Pin 中津」もあります。
サイクリングルートを往復すると100kmと長く、一気に走ろうとすると疲れますから、休憩するスポットも設けています。
日高富士には涼みの滝などの景勝地が多い


――最後に日高富士について。



日高富士とも称される真妻山。山頂からの眺望が素晴らしく、道中には数々の滝や豊かな緑が楽しめます。有名で高い山であっても山頂につくと、周囲に樹木が生え、視界を遮ることもありますが、日高富士は周囲360度が見渡せるほどの絶景を楽しめます。山頂の芝生でお昼ごはんを食べていただくことが多いです。往復の登山としてはほぼ3時間。登山初心者の方でも楽しめる山です。
山には涼みの滝などの滝のほか念仏を唱えて全国を歩んだ、徳本上人が初めて修業した洞窟が登山道の横にあります。このほか御滝神社もあり、周辺は県の自然環境保全地域に指定され動植物が豊かな場所です。そばに滝があり、幅広く高さは14mと日高地方有数の滝です。
鮎の一夜干しなどのさまざまな特産品も魅力


――話は変わりますが、食についてはいかがでしょうか。



和歌山県全体に言えますが柑橘類の生産地で有名です。また、日高川漁業協同組合では新鮮な鮎の一夜干しをつくっており、これは大きな特産品です。鮎を開き梅酢に漬けて乾燥させます。干物にした鮎を真空パックに入れ販売しています。
販売所: お魚工房 日高川(日高川漁業協同組合)や 道の駅SanPin中津
道の駅SanPin中津の場所は、和歌山県日高郡日高川町船津820番地
次に一度食べるとやみつきになる食味の「ごんちゃん漬け」があります。自然の中で取れた野草「イタドリ(地域周辺では「ごんぱち」という)」を漬物にしますが町の郷土料理として食べられていたものを商品化しました。
人気のある商品で日高川町まで買いに来る方もいらっしゃいます。
ごんぱちをそのまま食べるとすごく酸っぱく堅くそのままでは食べられませんので秘伝の方法で加工しました。ご飯とお酒のおともに合います。


「ごんちゃん漬け」の販売所:道のほっとステーション みやまの里
和歌山県日高郡日高川町初湯川202
――いずれも素晴らしい特産品ですが肉類ではなにかありますか。



「道の駅San Pin 中津」の中に「ほろほろ亭」というレストランがあります。町の特産でもある「ホロホロ鳥」を使い、焼き鳥やほろほろ丼にし、販売しています。ホロホロ鳥は、フランスを中心としたヨーロッパでさかんに飼育され、フランス料理やイタリア料理に使用され、やや筋肉質な点が特徴です。味わい深い調理で個人的には一押しの料理です。


お食事処「ほろほろ亭」の場所:和歌山県日高郡日高川町船津820番地
(内道の駅 SanPin中津)
ホタルの復活を祈る「寒川ワンダフルサイト」
イベントとしてはどのようものがありますか。



6月1日に、「寒川(そうがわ)」ワンダフルナイトを開催しました。2011年(平成23年)の水害で壊滅状態になったホタルの復活を、竹キャンドルの灯りで願うイベントです。 寒川の夜は真っ暗。だからこそ竹キャンドルの灯りがとても幻想的で、この日しか見られない、とても素敵な一夜限りのイベントです。


アウトドア観光を強化へ
――これからの貴観光協会としての方針を



まず日高川町という場所をご存じない方が多くいらっしゃいますのでもっとPRを頑張っていきたい。
PRする際に、コロナ禍を経て最近はアウトドア観光が盛んになっている点に着目し、これまで申し上げてきましたアウトドアスポットの紹介を強化したい。
2023年3月には第2鳴滝バンガロー前にある芝生公園を「鳴滝オートキャンプ場」としてリニューアルオープン。これらを軸に町の観光を活性化させたいです。
日高川町観光協会
住所 | 〒649-1324 和歌山県日高郡日高川町大字土生160 |
TEL | 0738-22-2041 |
公式HP | https://hidakagawa-kanko.jp/ |
公式X | https://twitter.com/hidakagawakanko |
公式Instagram | https://www.instagram.com/hidakagawa_kankou/ |
公式YouTube(ひだかチャンネル) | https://www.youtube.com/@user-sp5qi5gb3v |
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