日本と海外をつなぐグローバル企業として、システム開発事業・人材派遣事業などを展開するLandBridge株式会社。同社の三森 一輝社長の経歴は、埼玉県警に勤務した警察官時代、外国人の多い地域で治安維持にあたる中で、多くの葛藤や学びを得た。その経験をもとに、国籍を越えた信頼のネットワークづくりを現在のビジネスの軸に据えている。
実は、今、日本企業はベトナムのITエンジニア人材が優秀なため、日本企業は熱い視線を寄せている。例えば建設業では建物の情報をコンピュータ上で一元管理するBIMという手法が注目されているが、BIMモデルの作成ではベトナムのITエンジニアが活躍し、優秀な人材の奪い合いとなっている。
三森社長は警察官退職後、システム開発会社に入社。そこでベトナムのITエンジニアと出会う。「三森さんと一緒に仕事をしたい。システム開発は我々が請け負うから、三森さんは日本企業から仕事を請け負えば、いいビジネスになる」との提案を受け、三森社長とベトナムのITエンジニアが意気投合し、いったんフリーランスを経て、LandBridgeを設立した。
今、三森社長は日本とベトナムの架け橋になり、共に働くベトナムのITエンジニアへの感謝を胸に協業を推進している。最近では、AIの進化が著しいため、AI人材の育成にもつとめている。今回、LandBridgeの三森 一輝社長に話を聞いた。

LandBridge株式会社
三森 一輝社長
日本企業の案件を受注し、ベトナムのITエンジニアが活躍

――LandBridgeの会社概要について。
三森 一輝社長(以下、三森社長)主に受託開発で、お客様のシステムを作成する事業を実施しています。特に、オフショア開発※を行っています。通常のシステム開発は仕事を受注すると、社内のスタッフを中心にシステム開発を実施しますが、当社にはエンジニアは不在でベトナムのITエンジニアが活躍しています。
オフショア開発・・・コスト削減やグローバル人材の活用を目的とし、海外の企業や現地の技術者にソフトウェア、アプリ、WEBシステムの開発などの運用・保守業務を委託する開発手法を指す。



今、外国人労働者について様々な課題がありますが、「対立ではなく対話を。排除ではなく共生を。」という原体験をもとに、国籍を超えた信頼のネットワークづくりをビジネスの軸に据えています。
2022年10月にベトナム人の友人とともにLandBridgeを設立。人と人、国と国をつなぐ橋となるべく、多国籍な人材が活躍できる社会づくりに挑戦していきます。
警察官時代に、「対話の力」を吸収し、現在に活かす


――警察官からIT企業を起業された理由について。



警察官を7年続けていましたが、勤務当初から続ける考えはありませんでした。父は経営者でしたから、いずれ自分も何かを成し遂げたいとの想いもありました。
当時は、交番勤務、駅前警備や外国人対応などに従事、「対話の力」の重要性を認識していました。コロナ禍の襲来で自身を見つめ直し、自分も何かをしなければなにないと改めて考え、システム開発会社勤務を経て起業しました。
ITに飛び込んだ理由は、明確には覚えていませんが、YouTubeを見ていた時にこれから伸びる職種としてプログラミングがあり、ゼロから学びました。コロナ禍ではオンラインサロンも流行りましたが、ITエンジニアを職業として推奨する方も多かったです。自分もネットに影響され勉強しました。
ただ警察官時代は夜勤もあり、翌日に自宅に戻るケースもあり、そこから学びの時間にあてましたので、ほぼ寝ずに仕事とIT学習の両輪で生活し、新たな技術を習得するために、一心不乱の生活を続けていました。
この鍛錬では、警察官時代に鍛えられました。交番勤務から特殊部隊(銃器対策部隊)へ抜てきされると、訓練は想像を絶するものでした。毎日500回以上の腕立て、30kgの防弾チョッキ、腰の感覚が消えるロープ降下訓練。さらに「レンジャー訓練」では、30kg超の荷物を背負い山中を昼夜歩き続け、野ウサギをしめて食す極限のサバイバル体験も。「あれ以上の厳しさはない」と語るこの訓練が、今日の自己鍛錬につながりました。
猛勉強の末、未経験からシステム開発会社に入社


――そこでLandBridgeを立ち上げられましたが、いかがですか。



転職を模索した際、社会の仕組みやビジネスについて一から学び直す日々が続き、パソコンと本に没頭し、やがて「プログラミングなら自分にもできる」と手応えを感じ、猛勉強の末、未経験からシステム開発会社への転職を果たしました。
システム開発会社では、ベトナム人のITエンジニアのオンラインマネジメントを担当。これまで警察官時代に培ってきたコミュニケーション、リーダーシップと統率力を活かし、1年かけてシステム開発をやり遂げました。国籍を超えたチームとの信頼関係の中で、「人種を越えて協働することの喜び」を初めて心から実感したのです。
確かにコロナ禍での起業は大変でしたが、怖さはなく、勢いと流れに身を任せて設立しました。システム開発会社でのエンジニアのコーティングが役立ち、仕事を受注できたことも自信につながり、警察官時代の給料を越えました。ただし、1年間くらいのITエンジニアの経験ではできることは限られていました。
ベトナムのITエンジニア「私は三森さんと一緒に仕事をしたい」


――起業の決め手はいかがでしたか。



システム開発会社退職後、フリーランスとして独立。仕事を続けている時に、ベトナム人の友人のITエンジニアから、「私は、三森さんと一緒に仕事をしたい。ITの業務は我々が行う。仕事は三森さんが受注すればいいビジネスにつながるのではないか」との申し出があり、私とベトナムのITエンジニアが案件を次々とこなしていきました。
会社立ち上げ前からの私とベトナムのITエンジニアとの協業は、スムーズに進み、これなら会社を立ち上げても問題がない所まで来ました。
今、外国人労働者と日本社会の間には、見えない壁があり、「ともに働き、ともに生きる社会」を目指していきたいとの考えがありました。幸いなことに頼れるベトナムのITエンジニア人材もいたため、私としても怖さも不安もなく、「これからの仕事が楽しみ」という強い想いで起業したのです。
――人とのつながりは大切ですね。



私もその大切さを実感しました。最初に出会った方が次のベトナムのITエンジニアを紹介し、ベトナムとのネットワーク拡大につながったのです。その方々がいらっしゃらなければ、今日のLandBridgeはありません。
私は、人との出会いを雑にせず大切にしていくと、このようなことが起きるのだなと痛感しているところです。ただし、これは日本人にもいえることですが、いいベトナム人もいれば、悪いベトナム人もいます。
たとえば、システム開発であればもっと安くできますというベトナム人もいますが、出来上がったシステムは粗悪品になるケースもあります。ですから、安ければいいというわけではありません。
私たちは一つ一つの出会いを丁寧にしてきたからこそ、よりよいベトナムのITエンジニアとの出会いと連携を深められたのだと思います。


――一般論で教えて欲しいのですが、ITエンジニアの世界でオフショア開発の手法が進められている理由というのは。



私もフリーランス時代に1つの案件を50万円で受注しましたが、日本人のITエンジニアは高単価にシフトしています。今、そこでベトナムのITエンジニアに業務を委託することでシステム料金を安く抑えられます。
LandBridgeでの実績は様々あります。具体的な事例では、カメラマン向けのマッチングプラットフォームを開発。写真を撮る人と撮られたい人をマッチングするウェブアプリで、社内リソースの配分を考慮しながら、効率的な案件管理を実現しました。
予算的には高くなる可能性のあるマッチングアプリですが、低コストで実現。開発は、仕様決め、アイデア出し、デザインから実際の開発までを一貫して担当しました。





次に教育向けに、VRを活用した危険体験システムを開発。ユーザーが危険な状況に直面する体験を通じて、その回避方法を学べるアプリです。このアプリの導入で社内での研修が容易になり、従業員が実際に危険な状況を体験し、適切な対応方法を学べるようになりました。
日本企業から受注したシステム開発を、ベトナムの優秀なITエンジニアとともに納品するスタイルを確立しました。打ち合わせはオンライン体制により、案件を成功に導き、1年目は年商3,500万円、2年目は倍の7,000万円、3年目は1億円を超えました。
人種も国籍も関係なく、大切なことはお互いを尊重し、協業することでビジネスを成功に導いています。日本は、多様な背景を持つ方々とともに働ける社会が不可欠です。私は西川口駅前交番時代での経験により、国籍や立場を越え、理解しあえる社会を目指していきます。
――その西川口駅前交番での原体験とは。



私のベトナム人との出会いについて申し上げます。警察官時代、西川口駅前交番に勤務。交番には外国人の訪問が多く、地域的にも中国人、ベトナム人など様々な外国人がおり、彼らの職種も多様な地域でした。
まず、大前提として申し上げますが、今の日本は外国人と協力することがとても大切と考えています。現在の日本は少子高齢化で働き手も年々減少していく中で、外国人を排除するのではなく共生し、ともに協力していかないと国そのものが回らず、国力の低下を余儀なくされます。
川口市でのベトナム人は、日本に出稼ぎに来ている方がほとんどで、この人たちが不法滞在し、捕まえる機会がかなり多くありました。捕まえた際、話を聞いてみると、日本の労働環境が悪く、逃亡する事例が多かったです。外国人の労働力をうまく活用するためには、彼らの立場に立って、外国人を雇用する日本の事業主も労働環境を改善しなければ、外国人の逃亡は余儀なくされると見ていました。
交番勤務時代、夢を抱いて日本に来たにもかかわらず、劣悪な環境によってその夢を断たれる現実をまざまざと見せつけられました。その理不尽さに、正面から向き合うようになっていきました。また、日々の職務質問や地域パトロールを通じて、外国人との言語や文化の壁を越えた「対話術」を磨いていきました。
駅前で10時間以上立ち続け、不審者を見逃さぬよう「人を見る目」を養いました。些細な挙動の変化を察知する鋭い観察力と、相手の警戒心を和らげる丁寧なコミュニケーション力が身についたのです。
私としては、LandBridgeを通じて日本人と外国人が障壁なく働ける環境をつくりたいと願っています。
――ベトナム人は日本に期待して、働きに来ているのに、その期待が裏切られるのは悲しいことです。



ベトナム人は日本のことをよく知っており、日本で働きたいと願う方は多いです。しかし、いざ日本に来ると、雇用者が差別的な人であれば、うまくいきません。外国人人材の雇用の在り方の体制構築はとても大切なことです。
AI人材の育成にシフト


――最近では、新事業として「AI人材の育成」を強化しているようですね。



今、AIは急速に進化し、肌で感じています。これからITエンジニア会社もAIを追っていかないと差が拡大し、AI人材の育成を展開しないと手遅れになります。
また、かねてより教育事業に携わりたいとの想いもあり、AIがいいキッカケになりこれから本格的に始動していきます。具体的にはAI駆動開発を教えています。AI技術によりコーディングできるようになって12月にe-ラーニングとマンツーマンサポートサービスを同時リリースしています。



現在、小規模システムで多少のAIの知識があればコーディングできるよう進化しています。今、AIのコーディングを行う人材の育成につとめています。AI駆動開発が出来るようになると、社内のDX化やIT化は間違いなく進展していきます。
――AI駆動開発は、内製化と外部に委託する手法のいずれかを選択すべきでしょうか。



両方のケースがあります。IT化・DX化を急速に進めたい企業であれば、内製化をし、雇用するケースもありますが、逆に当社のような外部の会社がAI駆動開発を進め、一定数の成果が完了すると、プロジェクトが終了し、また別の企業で同様なAI駆動開発を進めるというケースも考えられます。
しかし、今、AIの進化は想像以上です。今後、描く未来としてはITツールの価値はほぼなくなる可能性があります。「ChatGPT」の利用で次々とプログラムを作成し、昔であればITエンジニアしか出来なかったことが、誰でもシステムをつくれる時代になります。
今、当社は4期目に入っており、オフショア開発とAI人材育成事業を将来的には五分五分の割合にしていきたいです。そうならないと日本のAI化・IT化が進展しない危機感を抱いています。
人力で行う企業は淘汰される未来


――これからAIによりどのように世界が変わっていくでしょうか。



人力で行う企業はほぼ淘汰されるのではないでしょうか。AIを活用しない企業のス ピード感が遅れ、使える企業が勝ち抜いていく状況になると想像しています。あえて断言しますがAIを使わない選択肢はありません。
――そうなりますと、AIスキルを活用できるとともに、深い人間関係を築くことが今後のビジネスパーソンが生き残る道だと思うのですが。



今後、AIスキルは民主化に進みます。そこで重要なのが先ほど申し上げた人とのつながりです。私どももベトナムのITエンジニアとの深いネットワークがあるからこそ業績が伸びている背景があります。これからは人間としての価値が求められる時代に入ってきています。
そこで今、経営者の方々は人間力を磨くために、YouTubeやXでの発信につとめていると想像しています。


――また、「生成AIで作るアニメ教室」を開催しましたが。



当日は生成AIを活用したアニメ制作を体験していただき、多くの方に新しいクリエイティブの可能性を感じていただけたことを嬉しく思います。
私の想いとしては、先ほどの「AI人材の育成」の質問につながりますが、AIは使ってみないと便利さが分かりません。それを様々な方に教えることにより、AIを身近に感じてもらいました。
参加者の方々ら、「AIって便利だな」と思ってもらい、AIは決して遠い世界ではなく、身近な存在と感じていただければ嬉しいです。
著作権の問題もあり、商用で使うのではなく、AIを使うとこんなに便利で簡単に作れることができることを知って欲しいという意図で使い方を教えました。
AIとの対話で事業計画を構築するサービスを始動


――新事業として、AIとの対話によって事業計画を構築・改善できるサービス「Loopin」を開始されましたが。



「Loopin」のサービスは挑戦する方を応援するためにサイトを立ち上げました。私が起業した際は、相談相手がいませんでしたが、お困りの方がいればAIで相談し、事業を立ち上げ、分析までしてくれますので私が創業時にあったら良かったなというシステムとなっています。
今、挑戦されたい方がAIにより事業を立ち上げやすくなっていますから、起業家のサポートになれるシステムになれれば望ましいです。
できることはチャットされ、チャットが回答し、ともに事業を構築していきます。AIとともに事業計画書を作成し、その事業計画書をAIが評価・分析します。
金融機関から融資を申請する際、事業計画書の提出を求められますが、事業計画書の提出に役立ちます。
――事業立ち上げではエンジェルなどに相談される方もいますが。



正直、コンサルタントに相談すると、相応のコンサル料金を請求されますし、以前は、起業のハードルは高かったです。Loopinを使用することで起業が民主化されますので、いずれ目指す所は有識者がアドバイスをしてくれるようになれば望ましいです。
理想を言えば、高い成長が見込まれる未上場企業に投資を行うベンチャーキャピタル(Venture Capital)にも入っていただき、起業家とVCとのマッチングができればいいですね。
次にAI技術が進展すると、オフショア開発が不要になる可能性があります。そこでAI開発の強化は重要です。一方、縁も大切で、難しい技術はベトナムのITエンジニアが担当し、できることはAIが担当する役割分担になっていきます。
ベトナムのITエンジニアの協力は引き続き求めますが、我々ができる幅を拡大し、利益を拡大するビジネスモデルを構築し、さらにはAI人材の教育面も強化したい思いがあります。
会社概要
| 会社名 | LandBridge株式会社 |
| 所在地 | 埼玉県越谷市川柳町二丁目401 |
| 設立 | 2022年10月 |
| 代表者 | 取締役CEO(代表者):三森 一輝 |
| サービス | オフショア開発、AIコンサルティング、自社開発 |
| 公式HP | https://www.landbridge.co.jp/ |





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