「自社のホームページを見ている人は、いったいどこからアクセスしているのか――」。この問いに回答を見いだせれば、様々なビジネスを生み出せます。そこで株式会社Geolocation Technologyの山本 敬介社長が、IPアドレスから位置情報を特定するという革新的な「位置情報認識技術」(IP Geolocation)を開発、現在ではさまざまなビジネスで活用されています。
山本氏は、1974年静岡県沼津市生まれ。高校卒業後、陸上自衛隊で通信ネットワーク業務に従事。地元のインターネット関連企業で営業職を経て、2000年にサイバーエリアリサーチ株式会社を設立。2017年に株式会社Geolocation Technology社へ社名変更。さらに、2020年に東京証券取引所、2021年に福岡証券取引所に上場。現在は、地域産業や起業支援にも注力し、委員や理事を務めています。
インターネット関連企業で勤務していた際、「全国のプロバイダーのIPアドレスをデータベース化すれば、市外局番レベルの地域判定ができる」と思い立ち、後のIP Geolocationにつながる着想の萌芽となりました。
起業後、IP Geolocationをホームページのアクセス分析へ応用し、さらに位置情報に加え、企業名や業種などの属性情報を掛け合わせ、活用の場はマーケティングからセキュリティ、リスク管理まで多岐にわたり、導入分野は拡大していきました。
「誰かの課題を、テクノロジーで解決したい」との情熱を持ち、「地図のないインターネットに、道しるべを示したい」との発想力で進化を続けるGeolocation Technology社を率いる山本 敬介社長に話をうかがいました。
IPアドレスでエリアマーケティング、インターネット広告を活用

――Geolocation Technology社の会社概要からお願いします。

会社設立は2000年2月21日で今年の2025年で25周年を迎えました。私が創業者で現在も代表者を続けています。本社拠点を静岡県三島市に構え、営業所は、東京都と福岡県に設置し、この3拠点で業務を展開しています。2020年には東京証券取引所の東京プロマーケット (TOKYO PRO Market)に、2021年9月には福岡証券取引所の「Q-Board.」に上場しました。
業務内容は、「IPアドレス」に対して、位置情報などさまざまな情報をひもづけたデータベースを作成し、これをもとにしたビジネスを展開しています。このデータベースは主に、エリアマーケティング、インターネット広告、BtoBマーケティング、サイバーセキュリティーなどの分野で活用している商品です。IPアドレスに位置情報や企業情報など100種類以上の属性を付加するIP Geolocation技術を独自に開発し、各種サービスとして提供してまいりました。
金融不正防止にIP Geolocationが効果


――そこで御社としては、「IP Geolocation(ジオロケーション)」を国内で唯一提供できる企業として注目をされているわけですが、仕組みや特徴、活用方法については。



実は創業時から現在に至るまでIP Geolocationの競合他社は誕生し、その後、撤退され現在では当社のみになっています。IPアドレスは、単なる数字の番号ですが、位置情報や企業の情報をひもづけることが当社の役割です。このひもづけた結果をお客様にデータベースとして提供しています。
一例ではバナー広告では、位置情報に合わせて地域をターゲティングする広告の基礎技術として、IP Geolocationで対応しています。次にホームページのアクセス分析でも広く利用され、ホームページ訪れた方の地域を分析し、会社名も特定し、営業リスト化します。
今まではマーケティング分野での利用でしたが、金融不正でも使われています。証券会社にご自身の証券口座を設ける際に、住所登録では仮に静岡県としますが、いざ株式や投資信託などの証券取引を実施する時には登録された静岡県ではなく、北海道さらには外国の中国などまったく異なる地域から取引を行う怪しい取引を検知するための根拠としてIP Geolocationが利用されています。
三島市の移住・定住促進事業※でも活用


――活用事例を教えていただけますか。



IP Geolocation技術を活用し、「組織」「気象」「回線種別」 「エリア」などを判定しターゲティングを行うことのできるディスプレイ広告配信サービスとして「どこどこad」があります。
「どこどこad」は、IPアドレスを用いたターゲティングなので、Cookie規制の影響を受けにくく、より正確な位置情報に基づいてリアルなターゲティングが可能です。また、Cookieを拒否しているユーザーやサイト未訪問のユーザーにもアプローチできる点がメリットです。
一例として、静岡県三島市などの、移住・定住促進事業における広告配信などご活用いただいています。人口の減少が全国の自治体で課題となっている中、まずは首都圏に在住の方へ地方への移住をアピールするためにご活用されているのです。
また、民間企業では、積極的なマーケティングの需要があり、“高精度なターゲティング広告の需要にどこどこadを役立てていただいています。


※三島市の住みよさ・・・日経BPコンサルティングが発表した「シティブランド・ランキングー住みよい街2025―」では、静岡県内で1位、中部圏内で3位、全国総合で第28位。特に、「気候が穏やか」と「自然環境が豊か」の項目では、全国3位にランクインした。
警察のサイバー犯罪にも協力


――警察などのサイバー犯罪捜査にも役立てられているとのことですね。。



サイバー犯罪があった際、警察は犯人の足取りを確認するためにパソコンやスマートフォンを押収します。その押収物から通信ログを抜き出し、そのログの中にはIPアドレスが入っており、IP Geolocationを活用すれば犯人がどの地域からのアクセスかの見当ができます。
IP Geolocation技術を用いて警察のサイバー犯罪対策を支援しています。当社のフェローも静岡県警察本部から「サイバー犯罪対策テクニカルアドバイザー」を委嘱されており、適切な助言等を行っています。
また、企業のサイバーセキュリティ分野では、ファイアウォールなどのセキュリティー製品があり、この中に、「このIPアドレスはアクセスを受け付ける」 「このIPアドレスはアクセスを受け付けない」などアクセスを制御する機能がついています。そこでどのIPアドレスをブロックするかについては、当社のIP Geolocationが使われています。
当社は、県警や警察学校でのサイバーセキュリティ研修の実績を持っており、一般企業向けにもサイバーセキュリティー研修の提供を行っています。
「SURFPOINT AI Expansion」を提供開始


――「SURFPOINT AI Expansion」を提供開始とのことですが、こちらの内容については分かりやすくお願いできますか。



IP Geolocationデータベース「SURFPOINT」と自社開発の解析システムを組み合わせ、IPアドレスを基点としたアクセスログに地理情報、時間情報、ネットワーク属性などの多次元情報を付加した拡張データの提供に加え、AIアルゴリズムの共同研究や業務委託による開発支援までを一体的に行う大学・研究機関・技術研究部門向けの新サービス「SURFPOINT Expansion」の提供を開始しました。
オンラインサービスは多くあります。会員情報を事前に所有していれば、性別、年齢、居住地などの属性は分かりますが、会員情報を持っていない会社は自社のサービスを利活用している属性が分かりません。
その際、IP Geolocationデータベースをサービスのアクセスログにひもづけると、顧客の居住地や会社などの属性が明らかになります。その紐づけたデータを活用することで、顧客分析やマーケティングが可能になり、分析の基礎データの充実が実現できます。今後はビックデータにAIで学習させて分析する動きになっています。そのための基礎データとして「SURFPOINT Al Expansion」を提供しました。


――今後の展開では。



まずは当社で活用してそのデータを各社にフィールドバックする方針です。傾向を分析し、見込み顧客を発見し、将来予測のために使っていくことが想定されます。
――「SURFPOINT AI Expansion」は普及する可能性が高いため、特別サービスとして一時間、無料サービスする試みもあるのではないですか。



はい、一部提案を行っています。
マーケティング分析もAI活用が重要に


――これからAIは大きな役割を果たすと思いますが。



当社のサービスは、ウェブサイトの成果を向上させるサポート的な役割が最も多いです。これまでウェブサイトのアクセス分析の分野は、分析機関を指定し、どれほどのアクセス数があったかの単純集計に限定されてきました。当社の登場で単なる数から地域、具体的にどの会社がアクセスしているかも分かるようになったのですが、これまでは集計した結果がリストで単純集計した世界観に留まっていました。
リスト内容をどのように読み解くのかがマーケティング担当者の実力が問われていました。しかしこれは簡単ではありません。どう読み解き、どのような可能性があるかについてAIに判断してもらうことがマーケティング分析で行われると想定し、私としては、「SURFPOINT AI Expansion」がその初弾の取組みです。
――今のお話をうかがいますと、AIを活用したウェブマーケターが台頭すると思いますが。



企業に所属しているウェブマーケターは、扱えるウェブは自社サイトに限定します。しかし、当社は複数サイトのアクセス解析を分析していますので、さまざまな知見があります。これをAIに学習させることでいろんな知見を共有できるようになります。
――そういうことですと、企業にとってはウェブマーケターを正社員として雇用するよりも分析も含めてアウトソーシングした方がメリットは大きいと思いました。



そうですね。企業のウェブマーケター単体では限界も生まれます。そこで進化させるためにはAIの活用が求められます。
自衛隊から企業に転職、さらに起業への道


――話は変わりますが、自衛隊から起業というのはなかなか大変だったと思うのですが。



私は自衛隊からインターネット関連企業に転職、在籍中にお客様から、「静岡って、横に長いでしょ。地域ごとに広告を出し分けられないか」との要請が私の人生を大きく変えました。この言葉が現在のIP Geolocation技術のアイデアにひもづくのです。私は当時勤めていた会社にIP Geolocation技術の事業化を提案しました。
ただし社長をはじめ各役員から、「当社にはそれほどの事業を行う費用はない」と却下され、一度は頓挫しました。ただ、自分でもこのアイディアを無にするのは惜しいということで本格的に起業に走ったのです。今、思い返すとアイディアを思いついた使命感とともに、「これを何としても世に出したい」という強い決意がありました。
ベンチャーキャピタルやエンジェル投資家が支援
――ベンチャーで起業されるというのは当時、ご苦労もあったのでは。



まず資金調達では金融機関などを回りましたが、ビジネスモデルが理解されず苦労しました。ひどい時には、「君が何を言っているかわからない」とまでいわれたこともあります。ただ幸いなことに、ベンチャーキャピタルとエンジェルといわれる個人投資家からは、「キミのアイディアは素晴らしい、成功するだろう。投資するよ」との助言や後押しを受け、立ち上がりました。
それでも苦労は続きました。まず静岡県という地域性のため、支援や相談先が少ない点にあります。この時は、インターネット上で探し、起業家支援をするメーリングリストに参加。その後、ベンチャーキャピタルや起業家、個人投資家の方々が集まる会合に誘われ、後日の投資につながりました。
――上場後はいかがでしたか。



上場後はちょうどコロナ禍で、この期間は思ったように積極的な投資活動ができませんでした。2025年から本格的にアクセルを踏み直し、中期のスローガンの「リブート (reboot)303030」を設定しました。まさに再起動という意味です。数字の最初の30は「2030年」を、次は、「売上高30億円」、最後が「営業利益30%」を意味します。
三島市、松崎町と地方創生で連携協定


――地方創生にも熱心とうかがいましたが。



冒頭に申し上げた通り、本社は三島市に構えています。また地方の方が使われる位置情報は重要な役割を果たしますから、地方に本社を置く意味は大きく、当社HPのトップページには富士山をクローズアップしています。
2020年1月には、デジタルマーケティングを活用した三島市の地方創生の推進に関して包括連携協定を締結しました。Geolocation Technology社は、シティプロモーション、ふるさと納税、産業振興などの情報発信や解析、職員や市内企業に向けたICT導入などについての支援や講師派遣など三島市の地方創生を推進していきます。
また、同じく静岡県松崎町とも地方創生に関する包括連携協定を締結。協定内容は、①農林水産観光業の一体的推進による経済活性化②防災・減災対策③医療、福祉の充実④町民サービスの向上⑤前各号に掲げるもののほか、双方が必要と認めることの5点です。


――他企業との連携については。



スタートアップ企業との連携に注力していきたいです。当社のサービスを活用し、スタートアップ企業の商品を売り込むサポートを前向きに考えていきたいです。スタートアップ企業は営業力が不足している傾向にあり、そこで当社のサービスと親和性の高いスタートアップ企業との連携に踏み込んでいますが、これからさらに連携できる企業を模索しています。
――今後の方針はどのようなことをお考えですか。



上場した理由でもありますが、当社の技術をより多くの方に知って欲しいと願っております。一般の方からは、IPアドレスからアクセスした地域や会社が分かることは漠然として理解はされています。しかし、IP Geolocation技術のサービスを提供している企業の存在は知られていないことも事実です。そこでサービス提供している会社が存在し、それがGeolocation Technology社であるというPRを活発にしたいです。
会社概要
会社名 | 株式会社Geolocation Technology |
代表者 | 代表取締役社長 山本敬介 |
所在地 | 〒411-0036 静岡県三島市一番町18-22 アーサーファーストビル4F |
設立日 | 2000年2月21日 |
資本金 | 2億3,574万円(2025年6月末時点) |
URL | https://www.geolocation.co.jp/ |
事業内容 | IP Geolocation技術の開発及びサービス等の提供 |
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