静岡県沼津市に本社を構える影山鉄工所(影山 彰久社長)は建物の鉄骨部分を製造する建築鉄骨製造事業を展開し、近年は共同住宅のほか、オフィスビル、倉庫、店舗、工場等の大型物件の重量鉄骨を主に製造、施工しています。2021年には国土交通大臣認定のHグレードに昇格しました。社内技術力の向上・対応力強化を続けており、免震鉄骨という高難度物件の製造対応なども果敢にチャレンジしています。
影山鉄工所を含む影山グループは8つの会社と2つの事業で構成。2020年からM&Aに着手し、M&Aの戦略としては、後継者不在、製造業、技術や特許を保有する特定分野のニッチトップ企業をターゲットとしています。
今回は、影山グループのICT、人事、広報などの業務を担当する株式会社アンセティック ブランディング部 主任 山本 明弘氏と株式会社影山鉄工所 総務部 吉川 諒氏に話をうかがいました。
免震鉄骨など高難度の物件にもチャレンジ


――影山鉄工所さまの会社概要からお願いします。

創業は1947年で、現在は影山彰久が代表をつとめ、本社所在地が静岡県沼津市です。従業員数は51名で事業内容は建築鉄骨業で製造から建て方まで一気通貫で実施し、店舗、学校、ビルなどの大型物件の重量鉄骨を主に製造、施工しています。2021年には国土交通大臣認定のHグレードに昇格しました。社内の技術力向上と対応力強化を続け、免震鉄骨などの高難度物件の製造にも果敢に挑戦しています。
Hグレード・・・鉄骨製作工場認定制度により、鉄骨工場は全5段階のグレードに分けられる。グレードにより、建てられる建築の規模や使用鋼材が変わり、工場の製作能力や設備、技能者や資格保有者の人数などに応じて定められる「グレード」は、上から順にS・H・M・R・Jと各グレードにランクされる。影山鉄工所のグレードは上から2番目のHグレード。
「アイアンプラネット ベース オブ 沼津」で溶接体験も


――今、あらゆる業界において人手不足でかなり大変な状況と報道されています。その中でも御社における鉄骨工事、溶接作業の担い手確保にはさまざまなことを展開されていますがこの内容について。



現在の社長である影山は3代目の代表です。社長就任時は業績も良好なため、採用にも力を入れましたが、どこにでもある鉄工所だったので、当時は人材の確保に苦戦しました。ただし、影山は、営業や鉄骨作業など、一連の工程や業務全般を経験してきましたので鉄骨作業の面白さは身に染みていました。
影山は、鉄骨作業は面白いのにもかかわらず採用に苦戦しているのは、知られていないからと考え、広報に力を入れました。広報専属社員を雇用し、情報発信にも強化。費用もかけWEBサイトのリニューアル、Instagramでの情報発信、本社のオフィスの装いを新たにし、溶接を身近に感じていただけるよう溶接体験工房「アイアンプラネット ベース オブ 沼津」(静岡県沼津市)を開設。一般のお客様をはじめ、ワークショップではお子さんに来ていただき、お客様が溶接を体験できる環境を整備するなどの工夫を凝らし、担い手の確保につなげる試みとともにブランディング向上につとめています。
――溶接の体験工房も盛り上がっているとうかがっています。



一例では静岡県の行政の夏休みイベントへの参加や異業種とのコラボワークショップを開催したほか、小学生に大人気の漫画雑誌「月刊コロコロコミック」とのコラボが沼津市のふるさと納税で実現。小学館が沼津市でふるさと納税の企画を探していたところ「ペン立て製作コースの溶接体験」が目に止まり、「一緒に子供を笑顔にする返礼品を企画しませんか?」とお声がけいただき、このプロジェクトが始動しました。





溶接講座とコロコロコミックのプレート付きフォトスタンドの製作を組み合わせた返礼品が完成しました。溶接体験工房の目的は広報ですが、最近では社会貢献の分野にも注力して実施しているところです。



他にも、影山グループの大洋産業株式会社(三重県桑名市)が運営している「鋳造体験工房 キャスターホーム(桑名市)」でも、鋳物の街である三重県桑名市のふるさと納税返礼品にコロコロコミックとキャスターホームがコラボした鋳造体験の返礼品が新たに加わりました。


ブラザーシスター制度により、離職を防止へ


――次に新入社員の育成については。



影山鉄工所ではブラザーシスター制度を設け、安心して働けるように、先輩社員がマンツーマンで指導。相談しやすい人が出来ることで社歴関係なく業務を行いやすい環境を作っています。次に新入社員に向けてのフォローアップ研修を開催しているほか、定期的に1on1という面談も実施。体の健康だけでなく、メンタル面のサポートも重視しています。仕事の悩みやキャリアのことだけでなく、ちょっとした不安や日常のことまで、安心して相談できる環境を整備。上司や人事担当者との信頼関係を深めることで、社員の心の健康を支えています。研修では、設計、安全作業、マネジメントとさまざまな研修を展開し、1日も早く戦力として活躍さできるようサポートしています。
――新卒の獲得競争は工業高校も含め、激化しているとうかがっています。



沼津市では、大企業の工場もあり、そちらに人材が流れることが多いです。しかし、大企業よりも地元に根付いた温かみのある企業でご活躍したいとの強い意志を持たれる学生もおります。地元志向が強く、愛着のある学生から当社を選んでいただいていると考えています。
――漠然とした質問で恐縮ですが、御社ではどのような人材を求めているのでしょうか。



まず鉄骨に興味をお持ちの方でものづくりにチャレンジされたいという方であれば、是非、当社への入社を前向きに考えて欲しいです。次に学んだことを実直に実践される素直な性格な方であれば、成長のためのサポートを行っています。
景気の波に流されない企業をM&A


――最近、M&Aの戦略について網羅的に説明をお願いします。



最初に説明いたしますが、影山グループでは、影山鉄工所の下に各社が置かれているのではなく、並列した存在であり、拡大よりも安定に主眼を置いています。影山鉄工所は鉄骨業で、景気に敏感な業種でもあります。たとえば、リーマン・ショックのような景気が大きく下落する事案があると、建設業も大きな打撃を受けますから、鉄骨業の仕事も減少します。
影山は鉄骨業が景気敏感な業務であることに懸念を抱き、鉄骨以外にも事業の柱を立てるため、2020年からM&Aに乗り出しました。そこではかならずしも建築業、鉄骨業に関わる企業ではなく、自動車関連、工作機械、電池関係など多様な会社をM&Aしています。つまり、視野を広げて多種多様な業界を見るようにし、景気の波に流されないような会社をターゲットにしているのです。
M&Aの手法を用い、優れた技術を持ちながらも後継者難に陥っている製造業・ものづくり企業を影山グループの業務改革手法を用いて収益力を高め、業界全体の活性化につなげる方針です。8つの企業と、付随する2つの事業から構成し、いずれも特定分野のニッチトップ企業です。建築鉄骨製造事業のビジネスを効率化していく過程で培った「ICT技術」、採用難の経験から強化してきた広報マーケティングの知見を活かした「HR・ブランディング」のノウハウをグループ内で共有していくことで様々な事業で成長していきます。


グループパーパス「日本を支える中小零細企業の未来を救う」


――どのような想いでM&Aを展開されているのでしょうか。



影山グループには、「日本を支える中小零細企業の未来を救う」というパーパスがあり、基本的には後継者不在の製造業の会社のグループインを狙っています。日本はものづくりが盛んな国です。しかし、事業は回っているものの、厳しい局面に立たされてる中小製造業も多いです。たとえば関連法律改正への対応、新卒教育、ITの推進など変化が大変に激しくなっていて、中小零細であればついていくことも厳しくなっています。
この厳しい環境に対して、経営者ご自身が高齢化している事情もあり、廃業の道を選択される方もいます。技術は優れていても、置かれている課題を解決できないために、会社を畳まれるのは、日本全体を考えてもあまりにも惜しいことで、製造業で後継者不在の企業のM&Aを展開中です。
製造業で事業継続にお悩みの企業であれば、影山グループに相談してもらえれば、道が開けるような枠組みを築いていきたいです。
――お困りの企業はいろいろとあると思いますが、企業情報はどこから入手されますか。



M&Aの仲介会社、次に金融機関、会社情報に強い会計士などにルートを持ち、情報をいただいています。


――最近、M&Aをされた、株式会社三協鋳造所や株式会社フジマシンについて教えてください。



影山グループの一員で鋳物製造事業を行う大洋産業があり、ここは、主にマンホールの蓋や水道メーターボックスなど公共事業に使用される上下水道資材を製造しており、長年安定した売上があります。また、同じく影山グループの自動車部品製造事業を行う株式会社小出鋳造所(愛知県碧南市)でも、鋳物製造が作業工程にあり、主に自動車部品(デフケースなど)、水道部品、産業部品を製造。大手自動車メーカーにも採用される製品の品質を更に磨き上げ、売上げの拡大を目指しています。同じ鋳物業ですが製造工程やマーケットは異なります。





そして、影山グループに鋳物業では3社目となる株式会社三協鋳造所(愛知県西尾市)がグループインしました。主に工作機械メーカー向けの鋳物を製造しており、少量多種で柔軟性のある生産体制によりお客様のニーズに対応しています。
それぞれ異なるマーケットを持つ3社が、鋳物業に特化した新たなグループを立ち上げ、鋳造に関する情報共有や相談、相互支援が可能な環境づくりを目的として、「鋳造グループ」を発足しました。





トラック部品製造事業を行うタカラ産業株式会社(静岡県富士市)は影山グループの一員で、ここでは運搬部品製造事業を展開し、主にトラック関連の部品を製造しています。一部の製品を製作するサプライチェーンを株式会社フジマシン(静岡県富士市)が担っています。
フジマシンは、後継者不在に悩んでいましたが、2024年12月に影山グループに参入しました。今後はタカラ産業と連携し、高品質でブランド力のある製品を生産していきます。


――今後のM&Aの方針は。



引き続き製造業で後継者不在の企業をターゲットにしています。可能であれば、特定の分野のニッチトップ企業で高い技術力・特許を保有している企業を狙い、影山グループ全体で事業の安定化を図る方針です。
今、中小零細にとっては厳しい環境です。たとえば賃金を上げ、採用に注力する原資、福利厚生への投資が必要です。私が所属している株式会社アンセティック(静岡県沼津市)では影山グループのICT、人事、広報を担当。10~20名ほどの中小企業はバックオフィスには社長一人しかいない会社もあり、関連の法律が変わり対応しなければならない局面も出て来ます。
――やはり、グループインされた企業は給料アップをされているのですか。



グループの中には給与面で人材獲得が難しい会社もありますので取引先に値上げ交渉させていただき、その分で社員の賃金をアップしています。
値上げにしても根拠を明らかにしなければ難しい。取引先が大きな会社であれば、稟議による決済が必要なため、理由づけでも影山グループの人材を活用し、報告書や申請書の作成が得意な方が作成にあたります。こうした点もグループインするメリットです。
グループ間のICT化で業務の透明性拡大
――ICTによる生産性向上も注力されていますが。



生産管理や日報のアプリを作成し、影山グループでは電子帳票、検査の自動化など少しずつICT化を推進しています。いきなり生産性向上を図るのは難しく、まずは可視化、データ化から入るのが第一段階です。以前は手書きの日報をそれぞれ社員が書き、担当者がとりまとめていました。担当者は1カ月の内に、半日から1日かけて取りまとめていたのですが、アプリ化により取りまとめ作業量はゼロになりました。
各工場にモニターを配置し、oVice株式会社(石川県七尾市)のバーチャルオフィスを導入し、連絡をスムーズにしています。ほか入出荷の管理や工程の進捗も表示。


ヤード・工場を集約し、関東にも受注増加目指す
――今後の方針については。



工場は3か所に分かれており、鉄骨製作後に保管するヤードへ一度集約し、建物を建てる現場へと出荷するのですが、今後ヤードや工場も1か所に統合し、そこから入出荷を行う方針です。そこでICT化をさらに進め生産状況が一目でわかるような仕組みにしていきたいです。
工場もヤードもいずれも沼津市内にありますが、点在していると、一度、鉄骨を運んでおろす作業をしなければなりのませんので効率がとても悪いです。工場とヤードを統合化すると工程もスムーズに進み、さらにシステム化も進展し、仕事もシンプルになっていきます。また営業的にはこれから関東の仕事の受注も増やしていきたいと考えています。


会社概要
名称 | 株式会社影山鉄工所(建築鉄骨製造) |
本社所在地 | 静岡県沼津市西間門28-3 |
電話番号 | 055-923-3000 |
代表取締役 | 影山彰久 |
公式HP | https://kageyama-co.jp/ |
公式SNS | ・公式X:https://x.com/kageyama_iron ・公式Instagram:https://www.instagram.com/kageyama_iron/ ・公式TikTok:https://www.tiktok.com/@kageyama_iron ・公式YouTube:https://www.youtube.com/channel/UC5r0S_3l60QjR88FY9Lf7Ew |
影山グループ | ・大洋産業株式会社(鋳物製造):https://taiyosangyo.com/ ・第一金属工業株式会社(金属加工):https://jp-dkk.com/ ・タカラ産業株式会社(トラック部品製造):https://takara-co.com/ ・株式会社小出鋳造所(鋳物製造):https://koide-cast.co.jp/ ・株式会社フジマシン(金属加工):https://fuji-machine.jp/ ・株式会社三協鋳造所(工作機械鋳造):https://www.sankyochuzosho.co.jp/ ・株式会社アンセティック(HR・ブランディング・ICT):https://www.anthetic.co.jp/ ・アイアンプラネットベースオブ沼津(溶接体験工房):https://iron-planet.jp/ ・キャスターホーム(鋳造体験工房):https://www.caster-home.com/ |
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