読谷村やちむんの里

読谷村やちむんの里

沖縄の伝統的な焼物「やちむん」は、素朴な風合いや、ぽってりと厚みのある手ざわりに、沖縄の自然や人が持つおおらかさが宿ったかのよう。

青い海と空、南国の植物、豊かな大地を思わせる鮮やかな色合いも特徴です。

普段使いできる丈夫さも兼ね備えていて、お土産としても人気があります。

やちむんの里|台の上に置かれた陶器

沖縄本島中部に位置する読谷村(よみたんそん)は、70以上の陶房が集結するやちむん
(沖縄の方言で焼物のこと)の聖地。

そんな読谷村の山あいにある「やちむんの里」は、19の個性豊かな工房やギャラリーが軒を連ねる工芸の村です。

緑豊かな自然に囲まれ、赤瓦の登り窯など風情ある景色を眺めながら工房巡りを楽しみましょう。

1.歴史と文化が香る、やちむんの里の始まり

やちむんの里|里の街並み 那覇空港から車で約1時間。「やちむんの里」はのどかな自然あふれる場所にあります。
もともと「やちむん」は琉球王国時代、各地に散らばっていた窯元が
那覇市壺屋(つぼや)に集められ発展してきました。
しかし1970年代、人口や住宅が増えた壺屋では、煙の出る窯焼きが困難になり、
陶工たちは壺屋に代わる新しい土地を探すことになります。

やちむんの里|沖縄初の人間国宝 人里離れた静かな自然環境が作品づくりにも適していたことから、
1972年、沖縄初の人間国宝としても知られる名工・金城次郎さんが読谷村へ移り住みました。
それをきっかけに多くの陶工が読谷村に集まり始め、やがて「やちむんの里」が生まれたのです。

やちむんの里|やちむんの里のシンボルでもある赤瓦の読谷山焼窯 やちむんの里のシンボルでもある赤瓦の読谷山焼窯。
1980年に大嶺實清さん、山田真萬さん、玉元輝政さん、金城明光さんの名工4名が築いた共同の登り窯です。
9つの窯が連なる雄大な姿は圧巻。 板やトタンで覆われているのは、窯焚きの後、
作品を冷ましているため。 中にはたくさんのやちむんが、取り出されるのを待っています。

やちむんの里|窯の最下層にある焚口(たきぐち) 読谷山焼窯の内部。 窯は傾斜をつけて作られ、最下層にある焚口(たきぐち)で薪を燃やすと、
炎がだんだんと上へ登り、熱が全体に行き渡るようになっています。
それが登り窯と呼ばれる所以です。 火入れは3の倍数月の3・6・9・12月に行われています。

やちむんの里|里のマップ のんびり歩きながら器探しが楽しめる「やちむんの里」。 とはいえ、すてきな工房が多く、
どこに行けばいいのか迷うことも。そこで、おすすめなのが入口近くのエリアです。
やちむんの里の生みの親である、故・金城次郎さんの系統を受け継ぐ、
読谷壺屋焼きの工房が立ち並んでいます。

2.手作りのぬくもりに心惹かれる「陶芸工房ふじ」の器

やちむんの里|陶芸工房ふじの看板 読谷壺屋焼きの工房のひとつ「陶芸工房ふじ」。入口近くのメイン通り沿にある看板が目印です。

やちむんの里|陶芸工房ふじの外観 「陶芸工房ふじ」は、金城次郎さんのお孫さんにあたる藤岡香奈子さんの工房です。
ご両親の宮城智さんと須美子さんも陶芸家という陶芸一家に育ち、
幼い頃からやちむんに親しんでいた藤岡さん。
須美子さんの営む「宮陶房」で修行した後、独立して2015年に「陶芸工房ふじ」をオープンさせました。

やちむんの里|朱色が鮮やかな、陶芸工房ふじの商品群 店先には沖縄らしい鮮やかなやちむんが並びます。 使い勝手のいいマカイ(お碗・丼)や湯のみは
人気のアイテムで、食卓にひとつあると一気に華やかに。
サイズ違いで揃えてコーディネートしてもお洒落です。
価格帯は幅広く、2,000円〜3,000円台と購入しやすいものも多いです。

やちむんの里|陶芸工房ふじで販売される様々なやちむん 藤岡さんの作品のほかにも、陶芸家である妹の山城尚子さんや、ほかの工房の作品が並んでいます。
作り手によって印象が変わり、同じものはひとつとしてないというところも魅力です。

やちむんの里|陶芸工房ふじ店舗内観 店内には大小の皿やマカイ、傘立てなど、さまざまな用途のやちむんが並んでいます。
作り手の温かさが感じられる作品を実際に手に取ってみてください。

やちむんの里|魚の絵柄が特徴的な大皿 笑っているように見える魚など、ユニークな「魚紋」は金城次郎さんの作品を象徴するモチーフ。

やちむんの里|金城次郎さんの孫、藤岡香奈子さんの作品 藤岡さんの作品は、金城次郎さんの伝統を継承しつつも、ハイビスカスや亀、クジラなど沖縄の自然をモチーフにし、女性らしい華やかさをまとっています。
流行に左右されないデザインで、永く付き合え、日々の暮らしの中で使うほどに味わいが増すようです。

●陶芸工房ふじ
住所/沖縄県読谷村座喜味2677-1
TEL/098-989-1375
営業/9時〜18時
定休日/なし
駐車場/あり

3.やちむんの醍醐味「窯焚き」に密着!

やちむんの里|やちむんの里で最初の登り窯「金城次郎窯」 藤岡さんの案内で窯焚きの様子を見学させてもらいました。 「金城次郎窯」は1972年に金城次郎さんによって築かれた、やちむんの里で最初の登り窯。それぞれ別の工房が使用する6つの窯が連なります。 窯焚きは、まずお酒などをお供えして神様に手を合わせ、厳かな雰囲気の中でスタート。 十分に温度が上がったら板などで最下層の焚口を塞ぎます。 その後、6つの部屋を1部屋ずつ下から順番に焚いていきます。

やちむんの里|火入れの様子 最初の工房の焚き上げが始まり、約3時間毎に次の工房へ順番に移って行われ、「陶芸工房ふじ」は3番目。 窯の両側に薪を入れる小口があり、藤岡さんと職人さんがそれぞれスタンバイし、声を掛け合って、タイミングをはかりながら薪を投げます。 まるで生きているかのような炎は温度が上昇するにつれて赤から黄色、白へと色が変化。1250度の高温までしっかりと焼きます。 やちむんの里|煙突から湧き上がる、モクモクと大きな煙 6つの窯の間にそれぞれある通気口を通って、後ろの煙突から大きな煙が上がっています。

やちむんの里|薪 やちむんの誕生にはこれだけ多くの薪が必要なのだそう。 用意するだけでも大変な作業です。

やちむんの里|作品の状態を確認する藤岡さん 窯の上にある穴から藤岡さん自ら色見を取り出し、作品の状態を確認します。

やちむんの里|真っ赤に燃え上がる色見 真っ赤に燃え上がる色見。窯の中で薪から出る灰をかぶり、その灰と表面に塗った釉薬が溶け合ってガラス化しています。 火のあたり方によって、生まれる味わいや表情が変わるのもやちむんの面白いところです。

やちむんの里|作業する男性の職人 色見の確認と薪入れを納得のいくまで繰り返してから焚口を塞ぎます。これで「陶芸工房ふじ」の窯焚きは終了し、次の窯の工房へバトンタッチ。 最後の工房の窯焚きが終わった後は、5日間かけてゆっくり冷ましてから作品が取り出されます。 手間暇かけて焼かれたやちむんは、いわば土と炎と人の共同作業の賜物。 金城次郎さんから受け継いだ伝統の技が藤岡さんたちの作品の中に息づいています。

4.沖縄を代表する名工4名の作品が並ぶ共同売店

やちむんの里|読谷山窯共同売店の外観 赤瓦が風情ある佇まいの「読谷山窯共同売店」。店の裏には読谷山焼窯があります。

やちむんの里|読谷山窯共同売店の内観 「読谷山窯共同売店」は、読谷山焼窯で共同制作する
大嶺實清(じっせい)さん、山田真萬(しんまん)さん、玉元輝政さん、金城明光さん、
各工房のやちむんが集まる直売所。
職人の手から生み出される作品は、どれも個性豊かで温かみのあるものばかり。
相場より割安で購入できるのもうれしいです。

やちむんの里|大嶺實清さんの作品が並ぶ棚 大嶺實清さんの作品が並ぶ棚。 芸術作品や大作だけでなく、日常使いしやすいアイテムや、モダンなデザインも豊富に揃います。

やちむんの里|青い色彩が美しい「ペルシャシリーズ」のお皿 入手困難とも言われる人気のペルシャシリーズ。沖縄の輝く海のような透明感のある青が目を引きます。 元気な色の夏野菜が映えそうなお皿。それぞれ味わいが異なり、贅沢な雰囲気を醸し出しています。

やちむんの里|土の質感と白い釉薬のコンビネーションが素敵な大嶺實清さんの大皿 どっしりと存在感のある大皿は、土の質感と白い釉薬のコンビネーションが素敵です。 どんな料理を盛り付けようかと考えるのも楽しくなりそうですね。

やちむんの里|大嶺實清さんの工房の箸置き 大皿などはなかなか手がでないという方には、大嶺さんの工房の箸置き1個300円も。
食卓がワンランクアップして見えそうです。

やちむんの里|山田真萬さんの作品棚 山田真萬さんの作品は、ダイナミックな筆使いと、鮮やかな色彩の絵付けが特徴。
定番の唐草模様はもちろん、個性的な水玉柄は女性にも人気があります。

やちむんの里|玉元輝政さんの作品 玉元輝政さんの作品は、コバルトや飴色、緑などのカラフルな釉薬を使った唐草の絵付けが印象的。
素朴な風合いの茶地の器も人気です。
種類豊富なマカイは女性用の小さめのご飯茶碗から大きめの丼まで揃い、
サイズ違いでいろいろ集めたくなります。

やちむんの里|金城明光さんの作品「ストライプ柄のコーヒーメーカー」 ストライプ柄のコーヒーメーカー。
金城明光さんの作品は今までのやちむんになかった独創的な作風が特徴です。

やちむんの里|金城明光さんの作品「イッチンの立体的な線と模様が美しいカップ&ソーサー」 イッチンの立体的な線と模様が美しいカップ&ソーサーも金城さんの作品。
ひとつひとつにストーリーが感じられます。

5.掘り出し物が見つかる「陶器市」へ行こう!

やちむんの里|読谷山焼陶器市 毎年12月に開催される「読谷山焼陶器市」は、県内外から多くの人が集まる里の一大イベント。
期間中は屋台の出店もあり、一日中楽しめます。また作り手と直接会話ができるのも魅力。
通常より約2割から3割引の値段で購入できておすすめです。

やちむんの里|赤瓦屋根に映える対のシーサー ひとくちに「やちむん」といっても、それぞれの工房に特徴があるので、
知れば知るほど奥深く味わいがあります。 ゆっくり散歩しながら、ぜひお気に入りを見つけてくださいね。きっとここにしかない出会いがあるはずです。

Photo&text:金城 絵里子 (取材:2020年11月)

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする