沖縄美ら海水族館のある本部町(もとぶちょう)は、別名「沖縄そばの町」とも呼ばれ、人気店や有名店が点在しています。
そんな本部町の静かな森の中で、金・土・日曜の週末のみ営業するのが、知る人ぞ知る、手打ち木灰(もっかい)そばの名店「そば処 夢の舎」です。
1.やんばるの森の中に佇む、築70年余りの琉球家屋
「こんなところに本当にお店があるの?」と疑ってしまうほど森の中ですが、本部グリーンパークというゴルフ場の裏手の細道を登ったところにあり、カーナビでも検索すると出てくるのでご安心を。
豊かな自然に囲まれて、屋根の上と入口にちょこんとシーサーが鎮座する、築70年余りの琉球家屋。
縁側から引き戸をガラガラと開けて靴を脱いで入ります。
おばぁの家に遊びに来たかのような温もりあふれる店内。
どの席からも緑豊かな庭を眺めることができます。
亜熱帯の景色が広がる縁側席。
お庭では季節の花々が咲き、アカショウビンの鳴き声が聞こえることもあります。
ステキな笑顔の又吉妙子さんと、夫の榮光(えいこう)さんが営む「そば処 夢の舎」。
もともとは那覇市の首里で小さな食堂を開いていましたが、陶芸家でもある榮光さんの窯が本部町にあったことから、2000年に移転。
当時、食堂の人気裏メニューだったのが沖縄そばでした。
榮光さん曰く、陶芸の土を練るのと、そばの麺を練る作業には通じるものがあるのだそうです。
食堂の時から数えるともう40年余りが経ち、常連さんの中には、高校生のときに通っていた子が結婚して子どもを連れて来て、今度はその子どもの子・孫を連れ、親子三世代で訪れる人もいるそうです。
「長年やってこられたのは遠いところまで訪ねてきてくれる皆様のおかげ。人と人のつながりに感謝しています」と妙子さんは目を細めます。
2.手間ひまが生み出すガジュマルの木灰(もっかい)そば
朝獲れの新鮮な海ぶどうが山盛りになった「海ぶどうソーキそば1,300円」。歯切れのいいプチプチとした食感が楽しめます。
キレイに透き通ったスープは本部町産の鰹と季節の野菜でとった出汁に、ソーキ(豚の骨付きあばら肉)の茹で汁と塩だけでシンプルに味付け。
鰹と肉の旨味に、野菜の甘みも感じられ、口の中で弾むようなコシのある麺と相性抜群です。
一般的な沖縄そばの麺作りには、かん水が使われています。
三重県から嫁いで沖縄に来た妙子さん。実は初めて沖縄そばを食べたとき、かん水の麺の匂いが苦手だったといいます。
それを知ったお姑さんが、昔はかん水ではなく、台所のかまどに残ったガジュマルの木の灰を水に混ぜ、その上澄みを使って麺を打っていたと教えてくれたのだそう。これが沖縄の伝統的な「木灰(もっかい)そば」。
妙子さんは「手間ひまはかかるけれど、木灰の香りとコシが生まれるから」と、昔ながらの木灰を使った手打ち麺の製法を今も大切にしています。
麺が見えなくなるほど恩納村産のアーサー(アオサ)で覆われた「アーサーソーキそば1,300円」。麺とスープに絡む磯の香りがたまりません。
付け合わせには、内容は日によって変わりますが、にんじんしりしり(人参の炒め物)やゴーヤチャンプルー、月桃の花の酢の物など、琉球料理の伝承人でもある妙子さんが腕によりをかけた逸品が並びます。
限定30食ずつ、また生麺のため茹で時間が10分ほどかかりますが、待つ価値アリです。
今では沖縄でも珍しくなった木灰そば。
沖縄旅行の楽しみのひとつとして、普通の沖縄そばと食べ比べてみてはいかがでしょうか?
Photo&text:金城 絵里子
(取材:2020年11月)
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