南城美術館

沖縄らしい景色が残る南城市の中でも、さらに山奥に進んだ場所にある日本最南端の美術館「南城美術館」。

まるで学校のような広い敷地に、校舎のように大きい建物、自由度の高い広場があり、その敷地すべてが美術空間です。

南城美術館は、その立地のおもしろさしかり、日本初の「情景式美術館」というスタイルも唯一無二の魅力を醸し出しています。

すばらしい情景から得る感動と、国内外のアーティストが泊りがけで創り上げる鮮度の高いアートをぜひご覧ください。

1.五感をうるおす、日本初の「情景式美術館」

南城市の太陽をぐんぐん浴びて佇む建物は、一見美術館というよりは学校や宿舎のよう。

それもそのはず、築30年以上のこの建物は、もともと西大(にしお)学院というフィニッシングスクール(女性のための教養やマナー、料理などを教える教室)でした。

建物の奥にそびえる杜は、世界遺産にも登録される聖地「斎場御嶽」に繋がっており、神秘のエネルギーと共鳴するこの場所に美術を愛するオーナーが一目惚れし、この地に美術館をつくることとなったのです。

建物は手前から「常設展示室」「アトリエ兼受付」「企画展示室」があり、それぞれ個性ゆたかな空間が創り込まれています。

写真は一番の見どころである常設展示室。

「美は生活の中、暮らしの中に存在する」というコンセプトのもと、西大学院時代にオーナー夫妻が実際に暮らした住居にすこし手を加え、生活に馴染ませるように作品を展示しています。

トイレやお風呂、寝室に絵画や美術品が展示されており、さらに草間彌生やピカソなど、貴重なものがさりげなく配置されていることに驚きます。

この大胆な展示は、日本初の「情景式美術館」というスタイルに沿ったもの。

そこにあるのは「アートはガラスケース越しに距離をとって鑑賞する、遠い存在ではない」という想い。

値段や希少性に囚われず、アートのメッセージ性を心で受けとっていく。

そんな深い鑑賞ができるよう、訪れた人とアートの距離を近づけているのです。

さらに、美しい海と空、木々が一望できることも情景式美術館の見どころのひとつ。

天気のいい日は外のテラス席でのんびりと、南城市の自然が織りなす天然アートをお楽しみください。

2.国内外の展示が定期的に変わる企画展示室

建物の一番奥にある、3室からなる企画展示室も見逃せません。

企画展では、国内外問わずさまざまなアーティストと連携し、定期的に展示内容を変えています。

取材に訪れた日は、ドイツのアーティスト3名が滞在して作成した作品が展示されていました。

2部屋ある大展示室には一面ガラス張りの面があり、小さい小窓が大、小展示室に点在。

そこから差し込む光も駆使しながら、アーティストがそれぞれの目線で捉えた沖縄を創作します。

今回、ドイツ人アーティスト3名は、3か月もの期間、南城市に宿泊して作品を完成させたそう。

美術館にはアーティストが泊まりながら作品を創造できる空間が用意されているため、沖縄の自然や文化、地域の人々とのコミュニケーションを通した、ここでしか生まれない作品が創作されるのです。

これまで県外はもちろん、海外はフランス、ドイツ、スイス、台湾、中国の方が創作に訪れたそう。

世界中の感性が沖縄をどう捉えるか、それを見て私たちはどう感じるのか。

ひとつひとつの発見がまた、新しい沖縄の発見にも繋がりそうです。

3.広々とした庭や、室内の畳間でイベントの開催も

建物向かいには、広大な敷地を贅沢に使った広場が。

訪れたアーティストが広場に作品を残していくこともあれば、イベントが開催されることもある自由な空間です。

イベントスペースはもうひとつあります。

それは、常設展示室の畳間とグランドピアノの部屋。

展示空間でありながらピアノを使った演奏や琉球舞踊など、空間に沿った催しを不定期で開催しています。

これまで催されたイベントは多岐にわたり、ロックイベントやナイトミュージアム、朝ヨガやアートキャンプなど、さまざまなコラボを実現してきたのだそうです。

今後は、小さな結婚式も構想中なのだとか。

常設美術館は、作品の位置やバランスをオーナーが数ミリ単位で指定して配置したそう。

情景式美術館というスタイルからは「値段に関わらず美術品がひとつでも家にあれば、そこは美術館になりえる」というメッセージも読み取れます。

南城美術館での作品鑑賞を通して、日々の暮らしの見え方もすこし変わるかもしれませんね。

Photo&text:三好 優実

(取材:2023年11月)

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